遠方の高齢の親のための緊急時準備:家族がすべきこと・親に頼むこと
離れて暮らす高齢の親御さんについて、もしもの時が訪れた際にどのように対応すべきか、不安を感じる方は少なくありません。特に、すぐに駆けつけられない距離にいる場合、その不安はより一層募るものです。しかし、事前の準備をしっかり行うことで、緊急時にも冷静かつ迅速に対応できる可能性が高まります。
この記事では、遠方に住む高齢の親を持つあなたが、緊急事態に備えて具体的にどのような準備を進めるべきか、そして親御さんご自身にも協力していただきたい事柄について、詳しく解説いたします。万が一の時に備え、安心して日々の生活を送るための一助となれば幸いです。
なぜ事前準備が重要なのか
緊急事態は予期せず発生するものです。例えば、親御さんが自宅で体調を崩したり、転倒して動けなくなったり、あるいは災害に巻き込まれたりする可能性も考えられます。このような状況において、事前に準備ができていれば、以下のようなメリットがあります。
- 迅速な対応が可能になる: 誰に、何を連絡すればよいか、必要な情報がどこにあるかが明確になるため、焦らずに適切な行動をとることができます。
- 心理的負担の軽減: 不安や焦りが軽減され、冷静な判断を下しやすくなります。
- 被害の最小化: 必要な情報がすぐに手に入ることで、医療機関への連絡や救助要請をスムーズに行え、親御さんの命や健康を守る上で重要です。
家族(遠方に住むあなた)がすべき準備
遠方にいながらも、親御さんの緊急時に備えてできることは多岐にわたります。
1. 緊急連絡先の整理と共有
親御さんの状況を把握し、緊急時に協力を仰げる人々の連絡先をリストアップし、家族間で共有しておきましょう。
- 親御さんの近隣に住む親族・友人・知人: 日頃から親御さんとの交流がある方で、緊急時に現地での安否確認や初期対応を依頼できる方がいれば、連絡先と協力の可否を確認しておきます。
- かかりつけ医・歯科医: 親御さんの健康状態を最もよく知る医療機関です。診察時間外の連絡方法も確認しておくと良いでしょう。
- 地域包括支援センター: 親御さんが居住する地域の高齢者支援の拠点です。介護相談や緊急時の対応に関する情報提供、見守りサービスなどの相談が可能です。
- ケアマネジャー、訪問介護事業者など: 親御さんが介護サービスを利用している場合、担当者の方々は親御さんの状況をよく把握しており、緊急時の連絡先として重要です。
- その他サービス提供者: 配食サービスや民生委員など、日頃から親御さんに関わっている方々の連絡先も把握しておくと役立ちます。
2. 親御さんの現状把握と情報整理
親御さんの健康状態や生活環境を定期的に確認し、情報を整理しておくことが重要です。
- 健康状態・持病・服用薬: 現在の健康状態、持病の有無、アレルギー、服用している薬の種類と量、お薬手帳の場所などを把握しておきます。できれば、直近の健康診断結果や医療記録の写しを預かることも検討しましょう。
- 生活状況: 日々の生活リズム、外出の頻度、家事の状況などを把握し、変化がないか常に気を配ります。
- 自宅の見守り体制の検討: 必要に応じて、見守りカメラ、人感センサー、スマートスピーカーなどのIoTデバイスの導入を検討します。また、定期的な電話やテレビ電話での連絡、訪問のルールを決めておくことも有効です。
3. 緊急時に駆けつける際の準備
万が一の際に、あなたが迅速に親御さんの元へ駆けつけられるよう、以下の点を考慮しておきましょう。
- 交通手段の確認: 自宅から親御さんの家までの移動手段(車、電車、飛行機など)のルートや所要時間、代替ルートなどを事前に確認しておきます。
- 宿泊先の検討: 親御さんのご自宅に泊まれない場合に備え、近隣のホテルや旅館などの情報を調べておくと安心です。
- 緊急連絡用の荷物準備: 貴重品、着替え、常備薬、充電器など、急な移動に備えた必要最低限の荷物をまとめておくと良いでしょう。
4. 資金準備
緊急時には医療費や交通費など、急な出費が発生する可能性があります。
- 緊急時用資金の確保: 事前に一定額の資金を用意しておく、あるいは親御さんの金融機関の情報や口座へのアクセス方法を確認しておくことも検討します。
- クレジットカード情報: 緊急時の支払い手段として、クレジットカードの準備と情報整理も重要です。
親御さんに協力・共有してもらうべきこと
親御さんご自身にも、もしもの時に備えて準備していただきたい事柄があります。これらは親子の信頼関係に基づいて、丁寧に説明し、協力を仰ぐことが大切です。
1. 緊急時連絡シートの作成と共有
以下の情報を一枚のシートにまとめ、いつでも手の届く場所に置いておいてもらいましょう。あなた自身も同じ情報を共有しておくことが重要です。
- 緊急連絡先リスト: あなたの連絡先、親族、かかりつけ医、近隣の協力者、地域包括支援センター、119番(救急車)、110番(警察)など。
- かかりつけ医の情報: 病院名、電話番号、診察券の場所、お薬手帳の場所。
- 服用中の薬の情報: 薬の種類、服用量、副作用の有無。
- 持病やアレルギー、既往歴: 医師や救急隊員に伝えるべき重要な情報です。
- 保険証・診察券・医療費受給者証の場所: 緊急時に医療機関を受診する際に必要となります。
- 現金の場所: 少額でも良いので、緊急時にすぐ使える現金の場所を共有しておきます。
- 自宅の鍵の場所・合鍵の有無: 緊急時にあなたが駆けつけた際に、家に入れないといった事態を防ぐためです。
2. 緊急時の安否確認ルールの設定
電話がつながらない場合など、緊急時の安否確認のルールを親御さんと共有しておきます。
- 「〇時までに連絡がなければ、近所の〇〇さんに様子を見に行ってもらう」「〇回電話しても出なければ、〇〇に連絡する」など、具体的なルールを決めておくと安心です。
- 定期的な連絡(毎日電話する、週に一度訪問するなど)を習慣化することも有効です。
3. 医療に関する意思表示
親御さんの医療に関する意思、例えば延命治療の希望などを、元気なうちに話し合っておくことも重要です。これはデリケートな話題ですが、万が一の際に親御さんの意思を尊重するために不可欠なことです。
緊急時連絡シートの具体例
以下は、親御さんに作成していただく「緊急時連絡シート」の項目例です。これを参考に、親御さんの状況に合わせて作成してください。
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**緊急時連絡シート**
**1. あなたの緊急連絡先**
* 氏名: [あなたの氏名]
* 携帯電話: [あなたの携帯電話番号]
* 固定電話: [あなたの固定電話番号]
* 勤務先(緊急時のみ): [勤務先名、電話番号]
* メールアドレス: [あなたのメールアドレス]
**2. その他の緊急連絡先**
* 近隣の協力者: [氏名] 携帯電話: [電話番号] 固定電話: [電話番号]
* 親族: [氏名] 関係: [続柄] 携帯電話: [電話番号]
* 親族: [氏名] 関係: [続柄] 携帯電話: [電話番号]
**3. かかりつけ医の情報**
* 病院名: [病院名]
* 電話番号: [電話番号]
* 診療時間: [診療時間]
* 診察券の場所: [例:リビングの引き出し]
* お薬手帳の場所: [例:寝室のサイドテーブル]
**4. 服用中の薬の情報**
* 主な持病: [例:高血圧、糖尿病]
* 服用中の薬: [薬の名前、一日量、服用時間、目的]
* アレルギー: [例:ペニシリン、花粉]
**5. 医療保険・介護保険の情報**
* 健康保険証の場所: [例:玄関の棚]
* 介護保険証の場所: [例:リビングのファイルボックス]
**6. 緊急時に必要なもの・情報の場所**
* 現金: [例:キッチンの引き出し]
* 貴重品: [例:寝室の金庫]
* 自宅の合鍵の場所: [例:〇〇さんの家に預けている]
* 緊急食料・水: [例:床下収納]
**7. その他特記事項**
* [例:補聴器を使用しています、連絡が取れない場合は近所の〇〇さんに電話してください]
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日頃からできること
事前準備に加えて、日頃からの継続的な関わりも非常に重要です。
- 定期的な連絡と訪問: 親御さんの状況を把握し、異変に早期に気づくためには、定期的な連絡や訪問が欠かせません。オンラインでのビデオ通話なども活用し、顔を見て話す機会を増やすことも有効です。
- 親子のコミュニケーション強化: 緊急時のことだけでなく、日々の何気ない会話を通じて親御さんの気持ちや状況を理解し、信頼関係を深めることが、いざという時の助け合いにつながります。
- 地域の情報収集: 親御さんが住む地域の地域包括支援センターや民生委員、消防署などが提供する高齢者向けのサービスや見守り体制について情報収集し、必要に応じて活用を検討しましょう。
まとめ
遠方に住む高齢の親御さんの緊急事態に備えることは、あなた自身の不安を軽減し、親御さんの安全を守る上で非常に重要です。この記事でご紹介した具体的な準備や、親御さんに協力していただきたい事柄を参考に、できることから一つずつ始めてみてください。
事前の準備は、単なる手続きではなく、親子の絆を再確認し、お互いを思いやる機会でもあります。冷静に、そして計画的に準備を進めることで、万が一の事態にも落ち着いて対応できるようになります。